脚本を書く仕事の中でも、セリフを作り出すということは大きなウェイトを占めている。
今回はそのセリフのお話し。
ゲームシナリオの仕事をしているときなど、自分はシナリオライターというよりも、ほとんどセリフ屋(ダイアログライター)なのではないか? と思うくらい、膨大なセリフを書いていた。
ゲームに限らず、シナリオというのは、作品によって多少の違いこそあれ、セリフが中心なのは、ほぼ間違いないだろう。
だから私は、日がなセリフと格闘している。
セリフとは、人が発する言葉だが、脚本においては、ストーリーを進行させたり、キャラクター性を表現したり、様々な役割がある。
ドラマで人が話すということは、あまりに当たり前すぎるため、なんとなく聞いてしまうが、名脚本と言われる作品の多くは、なにげないセリフにも、色々技術的な仕掛けが施されていて感心することが多い。
私などがいくら潜り込もうとしても底が見えないほど、セリフというのは奥が深い。
この辺りの技術的なことを言及すると、とんでもない量になるし、このコラムの主旨でもないので、興味のある人は、脚本の技術書や映画の評論を参照して欲しい。
このセリフに関して、ある作品に関わっていたとき、かの広井王子氏に指摘されたことがあり、それ以降かなり注意していることがある。
それは、常套句は極力避ける、ということだ。
常套句というのは、簡単に言えば、おきまりのセリフのことである。
例えば、マンガやアニメの4大常套句と呼ばれているのが
「なに!?」「まさか!?」「これは!?」「そんな!?」
である。これに「バカな!?」も加えれば5大になる。
この常套句という奴は、キャラクターの情動を劇的に表現するとき、確かに便利なセリフなのだ。
とにかく、どこでも使えてうまく収まるし、これらのセリフでないと表現が難しい場合もある。
マンガやアニメは、メディアの性格上、劇的な状況が頻繁に起こるが、俳優の演技と比較すると、演技の情報量があまりに乏しい。それは、演技者が結局絵であるからに他ならない。絵は絵であるが故に、記号的、パターン的な側面が強いのだ。
そのフォローのために、最も効果的かつ便利なのがこれらの常套句なのである。
実写でこの常套句が頻繁に出る作品が時々あるが、せっかく生きてる役者使ってるのになんかもったいないなあ、と思ってしまうのは私だけだろうか?
その使いやすさゆえ、つい頻繁に使ってしまいそうになるが、極力それ以外のセリフや、ト書きなどセリフ意外の部分での工夫をするよう心がけている。
もちろん、絶対使わないというわけではなく、使いすぎないよう気を付けている、ということである。
それに、意地になって無理に避けても、絵コンテで追加されていることが非常に多いのでその辺はアレだが、使いどころは考え、乱発はしないようにいつも気を付けている。
だから「あの作品で、しっかり使ってるじゃねーか!」という突っ込みはしないように(笑)
4大常套句以外にも、定番セリフや、こういうキャラならこういうセリフ回し、的なパターンもあるが、この辺はキャラの造形にも関わることで、原作ものの場合は、極力原作に合わせるため、オリジナルでない限りこちらの領分ではない。
口調に関しては、個人的な見解なのだが、例えば、お嬢様キャラが「〜ですわ」という話し方になるのは、キャラクター性の表現といった意味において必要であると思っている。
実際、一般的に認知される話しかたに、方言を除けば、それほど種類があるわけではないのだ。
新しい口調を開発するのも大切なことではあるが、視聴者が理解できる範疇で口調そのものにオリジナリティを出すのは意外と難しい。
私は、口調に変化を付けることに頭を使うよりも、話すセリフの内容にこそ工夫したほうが良いと思っている。
例えば、お嬢様キャラがなにかに感動したとして、その際に思わず口にするセリフをいくつか揚げてみると、
「素晴らしいですわ」
「感動しましたわ」
「胸が熱くなりましたわ」
「素敵ですわ」
「陶酔しましたわ」
……など、いくつも考えられるし、毎度お馴染みの決め台詞という場合はともかく、セリフを発する者の置かれた状況を考慮して、上手な使いかたを考えらればベストなのだと思う。
そう思うのだが、ああ、なんて理想は遠いのだろう……と最後は弱気になって、次回もセリフのお話し。
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