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第20回  〜アニメとゲーム、メディアの関係〜

 アニメやゲームの業界を行ったり来たりしている私だからこそ、実感できることがある。それは、このふたつの業界、実は似て非なるモノであり、それゆえ不可思議な関係性を保っている、ということ。
 自分にとって、関係の深い問題であるし、いまだから言える思い出話を交えて、色々と考えてみようと思った。

作品レベルで、アニメには叶わなかった

 私がゲームメーカーにいた頃は、アニメをゲーム化したものが大半で、メディアミックスで最初から決まっていた場合はともかく、ゲーム原作のアニメは非常に少なかった

 版権を取得するため、出版社やアニメ会社などといった版権窓口に頭を下げてゲーム化権を取得したりといった渉外的な仕事をしたりも時々したものだ。

 異論もあるだろうが、当時制作された多くのゲームは、キャラクター、あるいはその構築された世界観に対する世間の作品に対する認知力は、はるかにアニメのほうが、ゲームより勝っていた。
 アドベンチャーやRPGなどといったストーリー性のあるゲームが、すでに全盛を迎えてはいたが、多くのゲームのストーリーやキャラの造形は、アニメからの影響がかなり大きく、悪く言えば、アニメのパクリ的な要素が色濃かった。ゲームの完成度としてみれば高いのだが、ストーリー性、キャラクター性という意味では、明らかに稚拙な作品というのも少なくなかったと思う。
 それでも、システムやグラフィック、プログラムの完成度が高ければ、それで良しという風潮があり、かつ私もそう思っていた。いや、最初の頃、このコラムで書いたように、いまでも、ある意味そう思っているのだが……

ゲーム屋は、なめられていた?

 そんなわけで、私がゲーム屋だった頃は、やはりアニメはゲームより、ひとつ上のステージにあった、というのが当時の素直な実感である。
 ゲームマシンのスペックが上がり、原画や音声といった要素が必要になったときなど、ゲーム屋も、アニメ業界の一部と関わりを持つことになる。アニメーションシーンの原動画、声優の起用などだ。
 そういった人達と接触するたびに、ゲーム屋のステージの低さを実感していたものだ。ハッキリ言ってしまえば、こいつらに舐められてる、というやるせない思いを、しばしば実感させられていたのである。
 手を抜かれる割に、やたらとギャラをボラれる。一度は依頼を断ったのに、こちらからギャラを提示するとOKを出されたりしたこともある。ゲーム業界が一番景気の良かった頃である、いま思うに当時のゲーム業界は、まるで世間知らずの成金のようだった(笑)
 また、ゲーム業界の人間にも、問題がある。そもそも、スタッフの大半がアニメ世代であり、アニメーションを観て育った世代であるからして、アニメに対するコンプレックスが確実に存在していた事は否めない事実だ。 私がアニメ業界出身である、という理由だけで、こういった交渉ごとに駆り出されていた事からも、それは明らかだ。業界出身といっても、私は単なる元・進行で、それもリタイアしているのだ。

完全に素人扱いされていた頃

 ある時、アニメーション的な作りにしたいという企画者のコンセプトの元、キャラデザインや背景など、周辺周りを制作会社に依頼したことがあった。出来がいまひとつなのでリテイクを出したところ、その制作会社に当時在籍していた某プロデューサーが、烈火のごとく怒りまくって怒鳴り込んできた。 「アニメのこともわからないクセに、簡単にリテイクを出したりするのは解せない。そもそも、背景設定なんか、ゲームには必要ないでしょう!」
 と、そのプロデューサーは、手を震わせながら私たちに言った。ゲームだから背景がいらないという理由は無茶だし、クライアントが、キャラデザインに不満足ならば、リテイクを出すのは当然のことだ。そのプロデューサーが、何故怒っているのかが、私たちには、よく理解できなかった。ただ、素人に色々とアニメ的な指示を出されたことに対し、いたくプライドが傷つけられたらしい、というのが、後で仲介に入った代理店の説明でわかったくらいだ。アニメマニアのゲーム屋のアニメごっこで、偉そうに指示を出すな。極論すれば、こういうことだったのだろう。

 確かにアニメ業界と較べれば、ゲーム業界は、業界と呼べるものが出来てから日が浅く、スタッフも大半が20代であった頃の話だ。そのような奴らから、あーだこーだと言われれば、カチンとくるのは理解できなくもない。 このようなことがあるたびに悔しかったし、いつか、ギャフンと(古典的表現)言わしてやるぞ! と思ったものである。
 もちろん、中には、テレビゲームという新しいメディアの可能性を信じて、自ら率先して理解しようとするアニメ業界の人もいたし、今後はゲームを無視してたら本気でやばいぞ、と危機感を持っていた制作会社もいたのは確かなのだが、正直、こちら側もアニメーション会社とのつき合い方になれていないせいもあり、なかなか、歯車がうまく回らなかった事も多かった。

畏れ敬うというのは大げさじゃなかった

 とにかく、外からはどう見えていたのかは知らないが、ほんの数年前は、現場レベルではこのような状況であった。アニメ会社に頭を下げているゲーム会社……というのが基本であり、ゲーム屋はアニメ屋を畏れ敬い、アニメ屋はゲーム屋を見下す的な、構造が存在していた。

 まさか、そこまで……と思う関係者もいらっしゃるだろうが、これは自分の周りだけのことではなく、当時、つきあいのあった他のゲームメーカーさんから聞いても、アニメ業界とのつき合い方は大同小異であり、確かに実感としてあった。

 しかし、その関係は、やがて複雑に変質していくことになる。その後、ほぼ数年の間に、ゲームというメディアが大きく変質し、それに伴って、それぞれのユーザー、いやアニメ・ゲームのスタッフ自体も大きく変質していったからだ。
(続きます)

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