『アニゲの狭間』インデックスへ

第5回  〜ゲーム企画の話〜

 最近、ゲームを作りたい、というのではなく、ゲーム業界に入りたい、という志望者が多い。とにかくゲームに関わっていたい、というだけ。しかし、単に業界に入りたいというだけでは、就職に対するモチベーションとしてあまりに低すぎると思う。
 とはいえ、実をいうと私個人は、こう言った風潮に別段否定的ではない。ゲームメディアが業界そのもので捉えられているということで、それだけゲームメディアも成長してきたという証だからだ。音楽、映画、テレビのほうでも、やはり業界志望者という若者は多いのだ。

 そういう人に、それで、あなたはなにをしたいのですか?と聞くと、大抵は企画あるいはシナリオライターと答える。特殊な技能が不要な気がするし、これなら自分にもできそうと思えるからだろう。前回話したように、目に見えないだけで、企画もシナリオも、ゲーム作家ならではの特殊技能が必要なのであるが……
 まあ、実際のところ志望動機はどうだって構わないのだ。志望する当人が、本気だろうと軽い気持ちだろうと、本当に必要とされるのは本人の実力だけなのだから。

 企画志望者なら、その実力を測るために、必ずゲームソフトの企画書というものを要求されるし、本物の企画担当者なら、仕事として企画書を書かなければならない。
 私は宣伝関係の仕事もしていたので、他の人の作ったゲームに、外側から関わることが多かったのだが、企画書を見ただけで、なにをどう宣伝すればよいのか、わからないものが往々にしてある。企画書の書き方が下手なのか、実際なにも考えてないのか、企画を商品化した際の売りが立たないのだ。

 よく悪い企画書の例で、ストーリーが延々書かれているだけ、というのがあるが、さすがに、いまの若い人の企画書を読むと、お話だけ書かれている企画書というのは少なくなってきている。逆に多いのは、延々従来のゲームの批判が書かれていて、その後に、このゲームは、そういった不満点を全て解消しました、というものだ。で、結局、企画者が自分のゲームで言いたいこと、やりたいことは、それだけ……
 一応、システムやストーリーなど基本的なことは書かれているが、平凡で個性があまり感じられない。「いままでよりも素晴らしい操作性」と書かれていても、別に家電を売る訳ではないのだから、とてもじゃないが売りが立たないのだ。ユーザーの購買意欲をそそらないからだ。

 ゲーム雑誌などが増えてきて、ゲームに対する批評が一般化するのは良い思う。しかし、その影響からか、企画者ではなく評論家みたいなゲーム開発者&志望者の多いこと多いこと……
 ゲームが好き→ゲームの善し悪しがわかる→だから面白いゲームが作れるというのは大きな勘違い。善し悪しがわかるというスキルと、新しいものを生み出すスキルは別物なのだ。もし全く同じなら、映画評論家は名監督になれてしまうし、当然ゲーム評論家はみんなゲーム作家になれてしまう。もちろん、評論も良し、作らせても良しという人もいるだろう。しかし、それは、たまたま両方のスキルを持ち合わせていたというだけのことだ。
 そういう企画さんが、最近本当に多くなった。企画じゃなくて、ライターをやれば、もっと良いレビュー記事書けるのになあ、と皮肉ではなく思ったりすることもあるくらいだ。

 ただし、ゲーム企画は、必ずしも、内容がいままでにないもの、すなわち画期的であらねばならない、ということではない。
 TVゲームの世界観、キャラクター造形、これらを設定と言い換えてもいいのだが、これをあまり画期的な、つまりいままでにないような設定にすると、失敗する場合が多い。大抵、プレーヤーが付いてこられない。
 どこかで見知ったような設定を上手に引用したほうが、ゲームとしてはウケが良いのも事実。まあ、普通の小説や映画でも、画期的な設定やシチュエーションというのは、滅多に出るものではないのだが。

 なぜかと言えば、プレーヤーが主人公として、その世界に気持ちを移入させるのに、あまりに知らない世界だと入り込みづらいのである。ゲームは、あくまでプレーヤーが主体であるから、作り手側の世界に呼び込むには、あまり強引すぎると拒絶されてしまうのだ。これも、前回と同じく、ゲームの作劇における特殊性と言える。
 例えば、カッコイイシーンや感動するシーンがゲームに盛り込まれているとする。そのシーンが、プレーヤーに**という作品で見たシーンと同じではなく、いつか見たことがある素敵なシーンと思わせることができればベストだ。

 もちろん、私はTVゲームの設定にオリジナリティは必要ないと言っているわけじゃあない。TVゲームの作劇上のオリジナリティというのは、もっと別の部分にあるのだろうと思っているのである。

TEXT By.吉岡たかを
アニメ・ビデオ・ゲーム業界を経てフリーになった執筆屋。
広告、雑誌、アニメやゲームの脚本など、無節操に書き散らしてきたが、近頃は脚本業に専念しつつある。

[第6回目は3月23日更新予定だよ!]
『アニゲの狭間』インデックスへ